明日も精神科医

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診断書を書くにあたって

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どんな診療科でもそうですが、診断書を書くのは医者の大事な仕事のひとつです。よほどのことがない限り、依頼があればお断りすることなく診断書を書かせてもらいます。

ただこの診断書、当たり前ですが作成のためには"診断"が必要です。長い治療歴があったり、過去に同様の診断書を発行されている人であればさほど問題なく書けるのですが、初めて病院を受診する人でわけあって早めに診断書が必要という人はなかなかに難しいです。いろいろなことに頭を悩まされます。


例えばよくあるケースですが「ひと月ほど前からうつっぽく、仕事を休んだ方がいいと思っているのですが、会社から精神科の診断書が必要と言われて来ました」という人が来たとします。この人が無事に診断書を受け取るまで、私がどのようなことに悩まされているか、ご紹介したいと思います。

まず一つ目として「この人の話がどこまで本当か?」です。クライアントをいきなり疑ってかかるという失礼きわまりない態度ですが、多かれ少なかれ診察はいつも疑念に満ちた作業です。
「ひと月前からうつ」は本当か、「仕事を休んだ方がいい」は本当か、「会社から言われて来た」は本当か、など言葉の一つ一つに疑いの可能性はあり、どこかに嘘があると話が大きく変わることも珍しくはありません。
ただもちろん嘘をあばくのがこちらの仕事ではないため、誘導尋問をしたり糾弾したりするようなことはなく、たいていは「あー、この辺はウソかもなー」と思いながらもできるだけ親身に話を聞くのが基本です。なので明らかに騙されている場合でも、滞りなく騙され通すこともなきにしもあらずです。

次に考えるのが「じゃあこの人の診断名は何か?」です。仮にこの人が職場でのストレスでうつっぽくなっていた場合、"うつ病"以外にも"適応障害"や"抑うつ状態"などのライトな病名はあるのですが、果たして初対面の人にこんな簡単に精神科病名をつけていいのか、じゃあ何回外来に通ってもらったら病名をつけていいのか、その辺りは厳密なようで曖昧であり、事務的な兼ね合いもあるため、暫定的にしろ結局は初対面でなんらかの病名をつけることがほとんどです。

そして私が最も大切に考えているのは「今この場で診断書を発行することは、本当にこの人にとってメリットになるのか?」ということです。
医者が「あなたは病気です」と言った時点でその人は病人であることが確定します。健康であったそれまでの生活は失われ、病人としての生活がスタートします。今まで"気のせいかも"で済んでいた問題が、"症状"となり治療の対象となります。
それはある側面ではその人にとっての逃げ場となり、一時的な安らぎを与えるかもしれません。しかし一方でいったんついた病名が重い足かせとなり、社会復帰の妨げになることも残念ながらよくある話です。
明らかに症状が重篤で、すぐにでも治療が必要な人には、こちらから説得してでも診断をさせてもらいますが、今回のケースのように本人がしっかりしておりある程度余裕が伺える状況では、自分を病人にするかどうかの決定を最終的に本人に判断してもらうこともあります。そのときに私がよく聞いているのは「本当にしんどいのであれば、休むなり辞めるなりするのは妥当と思います。ただ休んだ後、どうしますか?」という質問です。


診断書作成は本当にルーティンワークです。ただ自分がサインをした一通の診断書でけっこうなお金が動き、人が動き、人生が動きます。その重い責任を考えると、書くのが怖くなってきますが書かないわけにはいけません。せめて、誠実な診断書書きでありたいなと思います。

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