明日も精神科医

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Posted by kobayashi_kei on

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私が一番よく分かっていますので

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「私のからだのことは私が一番よく分かっていますので」

小さい時から医者いらずで通してきた、高齢の患者さんからこうした言葉がよく聞かれます。上品かつやんわりと治療を拒否するための常套句です。
心配そうに家族が見守る中、医者は検査値がこれだけ悪くて画像がこうで治療すればこれがこれだけ良くなりますよと一生懸命説明しますが、たいていは頑なに聞く耳を持ってもらえず、狭い診察室に徒労に溢れた空気が充満していきます。

例えば精神的に非常に混乱していたり、認知機能に問題がある方であればやむを得ず強制的な治療が許される場合もあります。しかし一般的に正常な判断ができるかたであれば、治療をするかしないかの最終的な決断は、本人に委ねられることになります。放っておけば悪くなること、治療すれば良くなることを知っていながら、医者も家族も歯がゆい気持ちで見過ごすしかないのです。


実際のところ、自分の身体のことは自分が一番よく分かっているのかと言われたらもちろんそうではなく、そのために検診や人間ドックというものが存在します。自分自身の感覚では血圧の変動すら自覚できません。
自覚症状を伴わないけれど放置すると深刻な事態になる病気は多く、早期発見早期治療により回復できることも多いため、早めの対処で様々な負担を抑えようというのが21世紀版健康促進キャンペーンの売り文句です。

また精神疾患になると話が若干異なっており、病識がないことそのものが問題となってきます。統合失調症や躁うつ病や認知症などにより、自分の状態が異常であることを認識できない上に社会的な問題が大きい場合には、強制的な治療もやむを得なくなるのです。

どちらにしても自分の身体の内側の状態を自分自身で把握することは難しく、ましてやどこがどう悪くて何という病気であるか等は医者でも病院に行かないとわからないのが実情です。


ではやはりその人の身体について一番よく分かっているのは、その人を診察した医者なのでしょうか?

そう言い切ってしまうのもどこか危ない気がします。
例えば統合失調症等の精神疾患で病識のない患者さんが「薬のせいで余計に悪くなっている気がする」と言われることがときどきあります。
「悪くなっている」というのは現実的な感覚であり、いわゆる病気としては良くなっていると考えることができます。また薬自体に様々な副作用があるため、精神症状は良くなっても身体のしんどさが出ることは良くあります。患者さんの訴えを聞いて薬を減らしたりやめたりすると病状が悪化する危険性があるため、本人の訴えを聞きながらもあえて治療を続行することの方が多いです。

この場合、確かに医者の方が患者さんの状態を客観的に把握できており、病気を治療するという主眼のもとでは間違ってはいないと言うことができます。しかし患者さんは「悪くなっている」と訴えているのにそれを無視していることについてはどうなのでしょう。本来なら不調に対して原因を探り、取り除くのが医療であるはずなのに、これでは本末転倒な気がします。

こうしたややこしい例えでなくても、がんの治療などでも薬物、放射線、手術などにより患者さんは相当な苦痛を余儀なくされます。がんを放置しておくことの将来的なデメリットを取り除くための治療ではありますが、すべてのケースにおいて治療の苦しみが未治療の苦しみよりも少なかったわけではないと思います。そればかりは誰にもわかりませんが。


たしかに医者は患者さんの"病気"については多くの情報を把握しており、患者さん自身よりも良く知っています。
しかし患者さんの抱える"苦しみ"は患者さん自身のものであり、なにかの検査をして客観的に測定できるものではありません。それを忘れて"病気"だけを患者さんだと思い込んでしまい、"苦しみ"を無視した治療に走ると、病気は良くなったけれど他の何かが悪くなっているという状態に陥ります。

医者が患者さんに分かってもらいたいのは"病気"についてであり、患者さんが医者に分かってもらいたいのは"苦しみ"についてです。
その人の身体についてどちらがよりよく分かっているのかではなく、そもそも分かっているのものが違うため、比較のしようがありません。お互いに分かっていること、分かってほしいことをできるだけ明確にした上でどのような治療をしていくかを話し合うことができれば、最善の医療に近づくことができると思います。


「自分は病気ではないと思うのに、医者からは病気だと言われた」も、きっと患者さんにとっては苦しみの一つです。

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