明日も精神科医

スポンサーサイト

Posted by kobayashi_kei on

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

怒られたくはないけれど

Posted by kobayashi_kei on   0 trackback

とにかく怒られるのが苦手です。

子供のころからかなり臆病な性格で、大人になったら多少ましになるかと思っていたのですが、全くそんなことはなく。そう簡単に人間は変わりませんでした。

初期研修医の二年間はそれこそ怒られることが仕事のような日々で、毎日のように誰かしらに怒られていました。的確な判断とスピードが要求される救急救命、タイミングと迅速な計算力が必要な麻酔科、深く詳細な知識と洞察力が求められる神経内科など、それぞれの科で怒られる理由は様々で、常に戦々恐々としていました。怒るドクターはだいたい決まっていましたが。

処置や治療の途中で突然怒られると、私は固まってしまいます。パソコンでいえばフリーズしたような状態です。その状態からなんとか急いで頭と身体を再起動させなければならないのですが、動きはもちろんガタガタ、手は震え、頭もまったく働きません。普段ならすぐに思いつくような当然の知識すら思い出せず、適切な言葉も出てこないため、蚊の鳴くような声で「すみません」と言うのがやっとでした。しかし目の前の患者さんは治療が必要な状態であり、指導医も悠長に待てるはずがなく、「すみませんじゃなくてさっさとやれ!」などと急かされた日にはもう大変。さらにフリーズして完全に負のスパイラルに突入していました。
そうなると当然治療は上のドクターにバトンタッチ。無事に終わって自分が落ち込んでいるところに指導医の手厚い"指導"が入り、さらにうちひしがれます。この時点でたいてい夜中です。


おそらくこうした体験をしたことがあるのは、私だけではないと思います。基本的に甘やかされて育ってきた医学生が人の命を預かる医者になるための通過儀礼であり、一社会人の指導としても珍しくない光景です。
実際、厳しく指導されることで強く印象に残り、手順は身体に染みつき、状況に応じた判断をそれなりに可能にしています。
一番苦手だった指導医のことは顔も口調も発言内容もいまだに鮮明に思い出すことができ、けっこういやな気分になるくらいですから、教育におけるストレス負荷の有効性は身を持って知るところとなっています。


そして現在精神科医となり、明らかに怒られる量は減りました。患者さんから怒鳴られることはありますが、それはまた別の話で、いわゆる指導的なストレス自体はずいぶん少なくなっています。

考えられることとして、ひとつは"研修"ではなく"業務"になっていること。自身が主治医であるため逐一上からチェックをしてもらうことが少なくなり、最後まで自己判断で行動することが増えています。
そして精神科は比較的じっくりとしたスパンで治療していく仕事なので、命を救うために一分一秒を争うようなシチュエーション自体が少ないです。なので突発的に怒られるようなことも減ります。

あとは精神科医のキャラクターというか、もともと人の顔色をうかがうような商売ですので、感情的に怒りをぶつけてくるドクターは少ないのかもしれません。そうした人も時々いますが、やはり他の科の指導的なドクターとは違う印象です。
精神科医によっては、こちらの臆病さを見透かした上で怒らないようにしてくれている可能性もあります。しかしそれは反して言うと"怒ることの有効性"も把握されているということなので、若干恐ろしくもあります。


怒られないことで業務上のストレスは軽減し、私にとってはとても働きやすいです。しかし自分が正しいと思っている治療が間違っていることを指摘してもらえる機会が減るのも事実であり、それはかなりのリスクをはらんでいます。治療に自信がなければ相談もできますが、変に自分のスタイルが固まってしまい、誤った我流に陥ってしまうと最終的に患者さんに迷惑がかかってしまうため、常に自分で注意し続けなければなりません。

母親に叱られないと勉強しなかったように、ストレスの少ない環境では簡単に努力を怠るようになります。誰しも楽な方に行くのが楽であり、それは医師であっても同様です。
そうして無駄にキャリアだけ積まれていって、さらに誰からも注意できないようなポジションになっていくといよいよ悲惨です。表面上は尊敬されながら、えげつない陰口を言われていると考えるとゾッとします。なってみないとわかりませんが、そのころには誰かに正面から怒ってほしいと望むようになるかもしれませんし、他人の評価は全く気にならなくなっているかもしれません。
できたら後者にはなりたくないところです。

怒られるのは苦手です。できれば怒られたくないですが、否が応でも怒られる量は減っていき、結局自分を律することができるのは自分しかいなくなってきます。
医師という立場上、現場では上の立場であり、他職種からの指導的なフィードバックも得られにくいです。そのかわりにメディアや司法といった厳しい目には常に晒され、いつでも簡単に追いつめられる立場にあります。

日々の業務の中で気を引き締めて挑めるよう、この先生もこの看護士さんもこの技師さんも表面では自分に愛想良くしてくれるけど、陰ではきっとボロクソ言っているに違いないと自らにストレスをかけて、研鑽を積んでいきたいと思います。それはそれで業務に支障をきたしそうですが。

スポンサーサイト

Trackback

trackbackURL:http://ashitamoseishinkai.blog.fc2.com/tb.php/6-f7c3af61
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。