明日も精神科医

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Posted by kobayashi_kei on

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とりあえず治療してみました。

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外来患者さんや入院の担当患者さんが増えて業務が忙しくなるのに比例して、「とりあえず」が増えてくる気がします。

「とりあえず○○を処方する」や「とりあえず経過観察とする」等あやうくカルテに書いてしまいそうになり、はたと気づいてとりあえず「とりあえず」を削除しています。
辞書的には「とりあえず … ほかのことはさしおいて、まず第一に。なにはさておき。」といった意味なので表現としての問題はないのですが、もし自分が患者でカルテを見たときに「自分の治療とりあえずかよ!」と感じると思うのでやはりあまり適切ではなさそうです。

「とりあえずビール」に代表されるように、おそらくニュアンスとして「(なんでもいいけど)とりあえず」「(よくわかんないけど)とりあえず」の意味が含まれるのでしょう。アセスメントの甘さ、思慮の浅さがありありと伝わってくる表現です。
目の前の患者さんときちんと向き合い、診断や治療について熟考した末のプランであればきっと「とりあえず」が出てくることはありません。


人間の体には自力で治ろうとする力が備わっているため、正直な話よほどの重病でなければ適当な治療でもなんとなく患者さんは良くなってくれます。
たとえば「熱があるからとりあえず解熱剤と抗生剤」、「怪我をしたからとりあえず消毒」といった治療で症状は改善し、治ったことによりその治療法は習慣づいていきます。しかし最近ではそうした治療法が病気の改善を妨げたり、長期的に見た場合むしろ有害であることも指摘されています。以前にそう教わったから、周りもみんなそうしてるからとりあえず、がいつまでも通用するわけではなく、常識レベルで覆されることも医療の世界では珍しくありません。習慣的に同じ診療を続けることが技術的な向上をもたらすわけではなく、むしろ時代とともに相対的な質の低下として評価されていきます。

さらに精神科領域ではいわゆる身体の診療科と比べて客観的な指標が少ないため、疾患の境界も曖昧であり、薬の有無にかかわらずなんとなく良くなったり悪くなったりすることも非常に多いのが実情です。
そのためか精神科医はいっそう安易な「とりあえず」に陥りやすく、とりあえずのうつ病患者の増加や、とりあえずの向精神薬大量処方等の問題を招いています。
とりあえず出された大量の薬のどれかが効いてなんとなく良くなったけど、どの薬が効いたのかわからない。副作用がきついのも精神症状を治すために仕方ないから、とりあえず副作用を止める薬を飲んでください。今は症状がないけどいつ再発するかもわからないし、減らすことでまた悪くなるかもしれないからとりあえず今の薬をずっと飲み続けてください。
この怠慢と惰性がおりなす「とりあえず」の恐ろしさについて、私たちは何の言い訳もできません。


目の前で苦しんでいる患者さんに対してとりあえず何かを施すことで、安心感を得ることができます。しかしこの安心は患者さんにとっての安心でなく、何かしらしたという医師自身の安心です。
「とりあえず治療したから大丈夫だろう」と気を緩めていたら絶対なにかしらの落とし穴に落ちます。「とりあえず治療してみたけど大丈夫だろうか?」とどこかで常に引っ掛かり続けるくらいの緊張感を医師としては持ち続けなければなりません。大変ですが。

できるだけ精神的、体力的に余裕を持ち、知識を身につけ、症状についてきちんと考察、評価をすることにより「とりあえずの治療」を無くせる方向に進めたらいいなと思います、とりあえず。

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