明日も精神科医

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Posted by kobayashi_kei on

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つづく

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私の父はあまり説教臭い人間ではなく、ああしろこうしろと指図された覚えもあまりないのですが、「継続することが力になる」という教えは日ごろから私や兄弟たちに何度も話していました。
私自身がその教えにどこまで忠実であれたかは微妙ですが、話していた父本人は健康のために始めた犬の散歩を何年も継続して100㎞くらい走れるようになったり、家庭菜園をプランターからどんどん農地拡大し、最近は自宅近くの空き地を開墾しまくっているに至るなど、子供たちに示した教えを自ら継続して体現してくれています。そういえば父方の祖父のいとこは80数年の人生で自分が行った仕事を自ら編纂した「自分史」なる分厚くて巨大な本を作るなど、誰に言われるでもなく自分の世界に没頭し、エネルギーを大量投入できるヘンリー・ダーガーも顔負けの血筋のようです。

精神科医療においても、継続することは非常に大切です。風邪を引いたときのように薬を飲んで良くなったらはいおしまいではなく、たいていの場合長期に渡って薬物療法や精神療法、作業療法、デイケアといったあの手この手の治療を受け続けなければなりません。
その理由としては単純に発病から回復までに時間がかかることが多いこと、そして病気の状態を客観的に確認できる指標が少ないためにいつ再発するかわからないことがあげられます。医者も患者さんもいつどのようなタイミングでまた状態が悪くなるかわからないため、治った後も予防のための治療を受け続けなければいけないのが現状です。

しかし実際に患者さんの努力で治療を継続することはとても難しいです。薬を飲んだ経験のある方なら誰でもあると思うのですが、状態が良くなるとたいてい薬を飲み忘れます。いったん飲み忘れると飲むのが面倒くさくなり、次第に飲まなくなります。副作用がある飲みにくい薬であれば、自主的に続けるのはさらに困難です。
外来通院をしてくれている患者さんの大半は「薬を飲んでいます」と話してくれていますが、実際にきちんと服用できている人は3割程度というデータもあるほどです。医者の方も「だまされてるなー、やられたなー」程度で気楽に済めば良いのですが、やはり薬を飲まなくなった人は如実に悪化することが多く、生活が立ち行かなくなって再入院になったときなどはなんともやりきれない気持ちになります。

またカウンセリングや行動療法など、長時間かかる割に1回の効果の実感が乏しい治療においては、時間の制約が負担となり続きにくくなるという問題があります。本人が明確な目標を持ち前進している手ごたえを感じてくれたらいいのですが、そもそも病識が乏しく「受けさせられている」という意識が強い人はやはり続けることは難しいようです。

長期に渡る治療が必要な割に、自分の病気に対する自覚が持ちにくいことが精神科治療の大きなジレンマです。延々と説得し続けてもあからさまに「私は続けません」という手ごたえを実感することもよくあります。本人の好きなように治療を中断して勝手に再発するのであればそれは本人の責任であるとも言えますが、病気に対する認識や治療の必要性を理解させることができなかった精神科医の力量不足でもあります。
こればかりは劇的な打開策はなく、一人一人にあわせてコツコツと地道に説明し続けるしかなさそうです。
荒れ地に作物を撒き続けるような仕事ですが、難しい分だけ実りがあったときの喜びもひとしおであると信じ続けてやっています。


偉業を成し遂げた人たち、例えばイチロー選手や京都大学の山中教授のような人たちに私たちは憧れを抱きます。そのド派手な栄光の瞬間だけを見ると「ああ、この人たちは自分たちとは違う本当に選ばれた人間なんだ」と思ってしまいます。しかし彼らがインタビューで強調することは、ほとんどが重ね続けた地道な成果と支え続けてくれた周囲への感謝です。
自身の能力を慢心しないところがまた偉人たるゆえんなのでしょうが、継続し続けた結果の上に究極の世界があることも事実だと思います。

私自身は年を追うごとに自らの凡庸さを痛感しながら生きていますが、なにかをバカみたいに継続し続けるという血統には恵まれているようであり、その恩恵に賜りながらこれからも根気強く仕事をしていく次第です。

この雑文も不定期ですが続きます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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