明日も精神科医

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閉じた世界

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寝て起きてごはんを食べて仕事(学校)に行ってテレビを見てお風呂に入って寝て。今日も多くの人たちがさして変わらない普通の生活を送っていると思います。

私たちはみんな違う人間です。しかし誰もがある程度共通のものを認識し、ある程度共有されたルールを守る中で、ある程度の自由と不自由を約束された生活を送っています。ただそのある程度、実際のところはどの程度なんでしょうか?

例えば目の前に"赤くて丸いもの"があったとします。私とあなたがそれを見たとき、たいてい二人とも「赤くて丸いものです」と答えるでしょう。でも二人が認識している"赤い"と"丸い"は本当に同じでしょうか?私の脳が認識している赤をあなたの脳が認識したとき、それは青に感じるかもしれないし、私の認識している丸はあなたにとっての四角である可能性もあります。しかし目の前にある赤くて丸いものは二人がこれまでに経験してきた赤くて丸いものであるため、二人とも「赤くて丸いものです」と答えることができるわけです。
だいぶややこしいですね。

目や耳といった感覚受容器から入ってきた情報は脳内で信号として処理され、共通の刺激を共通の事象ととらえることができます(例えば波長700nmの波長の光=赤色)。しかしその処理過程がそれぞれの脳でまったく同じであるかどうかは確かめられておらず、まったく同じ刺激に対してもまったく異なった世界を認識している可能性が指摘されています。これはいわゆるクオリアの問題として扱われており、主観的世界と客観的世界の違いは哲学、脳科学、心理学等の現場で議論され続けています。


"東京怪童"という作品では、ある医療施設を舞台に、脳に様々な障害を持った人たちのドラマが描かれています。
交通事故による脳の損傷から思ったことを全て口に出してしまう19歳の少年、大脳皮質の疾患が原因で場所や時間に関係なく勝手にオーガズムを感じてしまう21歳の女性、人間を一切認識することができない6歳の少女、自分をスーパーマンであると信じており痛覚を一切感じない10歳の少年、そして彼らの主治医である若い医師を中心に、物語は展開しています。

社会生活上の問題を抱えていることにより、彼らは入院治療を余儀なくされており、"普通の生活"を送れないことに苦悩し続けます。自分がどんな風に生きたいのか、なにがまともでなにがダメなのか、普通に生きている人は本当に普通に生きられているのか、様々な疑問から様々な試行錯誤が繰り広げられ、何度もつまづいていく中でそれぞれの希望と絶望を確かめあい、人生の中に光を見出していきます。
こう書くとすごく重たい話の印象ですが、実際はポップな絵柄と洗練されたアメリカ映画のような演出により、あまりリアルに寄り過ぎないエンターテイメント性の高い作品になっています。


実際の精神科医療の現場でも、基本的に求められていることは"普通の生活を取り戻すこと"です。それは本人の希望の場合もあれば家族の希望の場合もあります。「この病気を治して元のように暮らせるようになりたい」「少しでも社会生活に適応できるようになってほしい」といった希望から治療は進められ、すぐ近くにあるはずなのにものすごく遠いところにゴールがあることを、患者さんも家族も医療者も日々痛感しつづけています。


"普通の生活"というのは当たり前にあるように見えて、実は非常に曖昧で流動的な観念です。それぞれの脳が認識している事象を集約させ、大多数が最もストレスの少ないものとして共通に認識されたものが採用されたときに、"普通"が形成されていきます。時代により場所により"普通"の感覚は異なっており、それがドラスティックに変化していくことも日常的に経験されていることです。
さらにこうした不安定な"普通"を私たちの脳は受容し、認識しています。各人の脳の情報処理過程はいまだほとんどがブラックボックスであり、私たちは他人が世界をどのように認識しているかを知る術を持っていません。
同じ世界を生きているようで、私たちそれぞれの脳内に形成された世界は未知のものとして隔絶されており、私とあなたでは全く異質な世界に生きている可能性もあるのです。

それぞれに異なった"普通"があるのなら、それぞれの"理想の普通"を描き、それを目指して生きていけばいいのでしょうか。でもそれはいよいよ普通じゃなくなってくる気がします。


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