明日も精神科医

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Posted by kobayashi_kei on

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できないことはできません。

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恥を忍んで告白しますが、私はこの歳になってもいまだに野球のボールの投げ方がわかりません。
どうしても右斜め前に飛ぶか、地面に叩きつけるかたちになってしまいます。これまでに何度か人に教わりましたが、一向に改善されず今に至ります。もしも自分に息子ができてキャッチボールしようとか言われたらどうしようと、頭から布団をかぶって脅える毎日です。

さらに悲惨なことに、私は歩き方がヘンです。
どうも重心がつま先にいっているらしく、フワフワと上下に浮かぶような奇妙な歩き方です。靴底もだいたいつま先がすり減ります。これも今まで散々指摘されてきましたがやはり治りません。
ただこの歩き方のおかげで足とお尻とウエストの引き締め効果があるのではという可能性が最近指摘され、じゃあこのままでいいかという気持ちになってきています。


この二つの事実からわかることは、私の運動能力に欠陥があること、そして多くの人が当然にできることを人に教えるのは意外と難しいということです。

誰にでも苦手なことはあります。勉強が苦手な人、運動が苦手な人、絵がうまく描けない人、人前で上手に話せない人、悩みは人それぞれであり、それらを克服する必要があるとき、人は人に教わります。
しかしいざ教わる相手を選ぶ際、とにかく優秀な人に教わればいいというわけではありません。
もちろん全然できない人に教わってもほとんど得るものはありませんが、あまりにも天才的でなんの苦労もなくできるようになった人は、「なにがわからないのかがわからない」という状況に陥ってしまうことがけっこうあります。お互いにやる気はあるのにどう伝えたらいいのかがわからない、これはだいぶ悲しいです。
むしろ過去に同じくらいの悩みを抱えていて、それを苦労して乗り越えた努力型の人の方が相手のわからない部分がわかるため、指導者としては向いていたりします。


精神科領域では「なぜこれができないのかわからない」が、多くの患者さんの悩みです。夜眠ることができない、食べることができない、人と話すことができない、家から外に出ることができない、さっき聞いたことが覚えられない、子供に愛情を注ぐことができない、一日に何十回も手を洗うことをやめられない、自分を傷つける自分を止めることができない、など様々な苦しみを抱えており、そこから解放されたいのにどうしたらいいのか自分自身にもわからない人が病院で治療を受けています。

心配した周囲の人たちは様々なアドバイスをくれます。「そんなにクヨクヨ悩んでるから眠れなくなるんだよ。もっと気軽に考えてみたら」「食べないと身体を壊してしまうよ」「もっと自分に自信を持たないと」「気合いが足りないんだよ気合いが」。どれも非常に的を得ておりまっとうな意見なのですが、患者さんは「できるものならそうしたいんだけど…」と逆に塞ぎこんでしまうパターンが大半です。

こうした場合の考え方として大切なことは「なぜそれができなくなってしまったのか?」と「できないままでなんとかすることはできないか?」だと私は思います。

前者の場合、それが脳や体の病気であれば医学的な治療が有効ですし、環境や人間関係によるストレスであれば、そこを深く見直していく必要があります。心因的なものや発達の障害が原因であれば、カウンセリングなどを通して少しずつ解決策を模索していかなければなりません。程度の軽いものであれば周囲のアドバイスやちょっとした工夫で改善されることもありますが、病的なレベルになってしまうと、医療機関の手助けは必要になってきます。

そして後者の発想ですが、これは自らの問題を諦めろというものではありません。大半の患者さんは誰よりも自分の問題と向き合い、誰よりもその改善を望んでいます。そこで改善に向けてやっきになりすぎている状態から一度距離を置き、"できない自分"を受け入れてみることでそこから建てなおしてみるという考えです。
本人も周囲も「常識にのっとって生きることが誰にとっても安心で、一番幸せなこと」という認識は強く持っており、そこから外れることへの不安は誰にでもあります。
しかし人のライフスタイルは様々であり、これまでの自分以外の生き方もいくらでもあります。社会的なサポートも様々です。固定された枠の中に無理に自分を戻そうとしてつらい思いをするよりは、他の選択肢があることを考えたほうが幸せなケースはきっと多いはずです。


私は精神科医として人と関わることを生業とし、日々メンタルの治療にあたっています。しかしもともと私のメンタルは決して強いものでなく、けっこうな人見知りで、社交性についてもどちらかというと低い人間です。
もっとタフで社交的な人間になりたいとは常々思っていますが、この弱さもまた、患者さんの悩みを聞きとる上でなにかしら役に立っている気もします。むしろ今の自分でなければ、精神科医にはなっていなかったとも思っています。

自分の欠点が人の役に立ち、お金に換えることができているのなら、精神科医も悪い商売ではありません。
ヘンな歩き方も新手のダイエットとして提唱し、未来のスタンダードになってくれれば本当にいうことありません。

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