明日も精神科医

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Posted by kobayashi_kei on

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医師の限界

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この仕事をしていると、毎日とにかくいろいろなことを質問されます。
病気や薬について尋ねられることは当然なのですが、「お金ないんですけどどうしたらいいですか?」とか「一日一食のダイエットって効果あるんですか?」とか「人と人とが出会ったら、それが愛なんですか?」など本当にいろいろ。

ときにはひねりの利いたブラックな返答をしたくなる衝動にも駆られますが、"お医者さんの言ったこと"というのはこちらの思っている以上の信憑性を伴うことがあり、100%真に受けてもらって大怪我でもされたら大変です。
「そんなの私が知るわけないでしょ」というのも冷たい気がするので、なるべく一生懸命頭をひねって返答しています。

医療と全然関係ないことを尋ねられたときの返答は難しいですが、まさに自分が患者さんに提供しなければいけない情報のはずなのに、明言することが難しい質問も多くあります。
「私の病気って治るんですか?」はその代表的なものです。

病気を治療する過程でいろいろな疑問がわき、こちらも様々な情報を提供しますが、最終的に患者さん自身が最も知りたいのはこの「病気が治って元気な生活に戻れるのかどうか」だと思います。にもかかわらず、これをはっきりと提示することはとても難しいです。
「病気を良くするための方法は提供できますし、続けてもらうことで今より良い状態になってもらうことはできると思います」と話すことはできます。しかし「来月には絶対元気になってますよ!私に出会ったからにはもう心配いりません!」ということはできません。100%治る保証ができないのは当然であり、それはどこの医療現場でも変わりありませんが、精神科は特にその傾向が顕著な気がします。
薬や精神療法の効果は人それぞれであり、いつどのように良くなるのか、そもそも回復するのか悪化するのかもやってみるまでわかりません。せいぜい経験とデータに基づいたおおまかな予測程度であり、それらはいつでも平気で私を裏切ることを、これまでに何度も経験しています。


「治ります」の保証ができない一方で「もう治りません」の線引きというのも非常に難しいです。精神医学では薬やカウンセリングといった医療者側のアプローチとは別に、"成長"という非常に重要な要素があります。
人間の精神は毎日同じものではなく、こちらの期待とは無関係に上がったり下がったり良くなったり悪くなったり、学んだり忘れたり、そして確実に老いていきます。
いくら薬を飲んでも良くならなかった症状が本人の気付きにより劇的に改善したり、暴れて手がつけられなかった人間が次第にエネルギーそのものが枯渇し、社会適応できるようになることもあります。
これらはもう個人差とかいうレベルでなく、人生そのものの在り方であるため、医師の予測の範疇をはるかに超えてしまっているのです。

もちろんこうした本人の潜在能力だけに期待するわけにもいかないので、いわゆる医療の限界を提示する必要には迫られます。「できるだけの治療を施しましたが、これ以上の改善は難しいと思います」という話です。患者さんと家族にとって最も辛い情報であり、こちらとしてもできるだけ避けて通りたいところです。
こうした話をするときに大事なことは、その限界が医療の限界なのか、病院の限界なのか、医師個人の限界なのかをできるだけ明確にすることだと私は思っています。

医療の限界、例えば認知症の記憶力を元に戻すことなどは現代の医療では不可能と言われています。そのため不眠や怒りっぽさといった、認知症の周辺にある症状を治療することが目標になってきます。この方針はおそらくどこにいっても大差なく、現代医療において共通の限界と思われます。
病院の限界の場合、設備や専門的なスタッフの不在などが問題となるため、可能であれば別の病院を紹介することが重要です。
そして医師個人の限界、これを認めることが案外難しいのですが、「治らない」のではなく「自分には治せない」ということを明示し、治すことのできる医師につなぐ必要があります。
医師としての恥やプライドからそのような行動がうまく取れない医師もいるかもしれませんが、それ以前に"自分が知らないこと"を知ることが非常に難しいのです。世界中のどこかを探せば自分の目の前の難治の患者さんを直すことができるのかもしれないけれど、その情報を全て網羅することはできません。隣の病院の医師がどんな治療をしているのかすら知らないのが実情なのですから。
ただそれでも"自分が知らないこと"を"世の中すべてが知らないこと"と誤って伝えてしまうと、患者さんには多大な被害を与えることとなってしまうため、十分な注意が必要です。


患者さんにとって"お医者さんの言ったこと"は大きな意味を持っています。「もう治せない」と言われて諦めてしまう人もいれば、それを信じずに治せる医師を探す人もいるでしょう。私たちの仕事は患者さんに絶望を与えることではなく、より良い人生を送ってもらうための手助けをすることです。そのためには自分の知識を増やすことはもとより、自分の知識の限界を知り、自分の限界以上の知識を知る人のところに患者さんを導く方法を知らなければいけません。

知ることで人を救うことができる仕事であり、知り続けることをやめるわけにいかない因果な仕事です。世の中の大半は"私の知らないこと"でできています。

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