明日も精神科医

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Posted by kobayashi_kei on

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よくわからない世界

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今から約60年ほど前の1950年代初頭、抗結核薬のイプロニアジドという薬を服用した患者が肺に穴が開いてるにも関わらずハイテンションで踊り始めたという経緯から「これ飲んだ人は元気になる!元気が出る薬だ!」と医者は考え、抗うつ薬の開発が始まりました。
そこからモノアミン酸化酵素阻害剤、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、SSRI, SNRI, NaSSAなど新しい薬がどんどん開発され、実際の医療で活躍しています。
また電池などで使われている金属のリチウム、あれも人が飲むことで躁状態が改善することが知られています。

だいたいの薬がそうですが、始まりは理論ではなく経験であることがほとんどです。「こうだから効く」ではなく「なんだか知らないけど効いたのはなんでだろう?」でサイエンスは発展していきます。

そして実際の医療現場でも、そんなよくわかっていない世界による恩恵は絶大です。
いくら元気づけても慰めても悲嘆にくれて何もできなかった人に笑顔が戻ったり、常にイライラと周囲に当たり散らしていた人がものすごく優しい人になったりします。
その変化により医者や患者、周りの人たちは喜びますが、その一方で「病気で人格が変わり、さらに薬で人格が変わった」ことに対するある種の不気味さは禁じえません。この不気味さの正体は一体なんなのでしょうか。

例えば、骨が折れているから手術する、血が出ているから止める、はとてもわかりやすいです。血液検査で肝臓の数字が悪いから薬を使って改善させる、これもそれなりに納得のいく話です。
結局、目に見えることで人は安心します。目に見えないことで不安になる。目に見えないものを目に見えるようにして治療に応用したのが、現代の医学です。

精神医学ではそうした客観的な指標がまだまだ少ないのが現状で、それが治療の得体の知れなさを産んでいるのかもしれません。
しかもそんなよくわからない薬のくせに、効果が出たときはその人の全てがガラリと変わる。内側の見えない部分と外側の大きな変化によるインパクト、これも不気味さを感じさせる大きな一因と思われます。

もちろん精神医学の世界でも目に見えるようにするための研究は進んでいます。しかしその一方で、てんかんや神経梅毒といったかつての"よくわからない脳の病気"はどんどん理解が進み、同時に精神科から神経内科に治療のフィールドが移っているのも現状です。
ここから伺えるのは"よくわからない"は精神科医のアイデンティティであり、全部わかった頃には精神医学は消滅してしまうかもしれません。


自分の目を自分で見ることができなかったり、自分の鼻の臭いを自分で嗅げないように、自分の感じていることを感じたり理解していることを理解するのは根本的に難しい行為です。しかし日々研究は進み、いずれ精神のすべてに答えが出る日が来ると思います。

ただ個人的にはまだまだよくわからない世界でいてほしい。「わからんねー」と悩んでいる方が楽しいので。

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